肖像画に内在するもの(予知絵としての側面)2008/09/14 10:45

Coolpixs S600で撮影。高感度モード
 肖像画は、単なる顔の記録ではなくて、その人の生涯や人格、業績を映し出すカタシロであると思う。
 ところが、1840年代に銀版写真が発明されて以来、肖像画が大幅に減少し、写真が、特に家庭的個人の記録としては、主流となり、画家達の仕事は更に減っていった。
 写真術が発明される以前の肖像画には、単なるその人の風貌の写生だけではなくって、その人の歩んできた人生や業績が、背景や持ち物、服装に象徴的に描かれて来たりする。
 従って、肖像画を見る時に注意しなければならない点は、その肖像自体以外のイコノロジー的要素に注意しなければならない点であり、そのイコノロジーを読み解くことで、その人の生涯が明らかになる。
 これらの埋め込まれた「記号」は、画家が意識的に描いている部分、あるいは、社会的慣習、宗教やその他の文化・習俗的規範に基づくものの、全く無意識的に描いている部分もある。
 これらのイコノロジーの要素が全く同等に扱うことは出来ないが、それぞれの要素を十分に分析・検討することで思いがけない面が見えてきたりする。
 面白いのは、歴史画や物語絵に当該人物が描かれている場合である。この場合、これから、その人物が殉教したり、あるいは、奇跡に遭遇、波乱の生涯を歩む方向性等が背景の風景等に象徴的に描かれている。
 これらの絵は、見ようによっては、その人の生涯を「予知」していると言え、私は、この様な性格の絵を「予知絵」と呼んでいる。
 「予知絵」は、今回の卒論にも書いたが、それは、絵巻物の世界にも表現されているのである。
 例えば、国宝源氏物語絵巻の若紫巻の光源氏の肖像を描いた背景に暗示的に描かれている岩や松、桜、対面している僧侶等諸々の要素に、彼の生涯を暗示、予知する様に描かれている。
 この様に肖像画は、単なるその人の風貌を正確に後の世の人に伝えるという機能のみならず、その人の歩んだ人生、業績、価値観、社会・歴史的評価までもが内在的に表現されていると私は考えている。
 現代社会で肖像画としての役割を果たしているのは、郵便切手である。
 この2枚は、旧ソビエト社会主義連邦共和国の音楽家シリーズであるが、ショパンやシューマンの肖像画の背景には、「革命エチュード」や「トロイメライ」の楽譜が描かれている。また、そのデザインや配置にもかつての世界最大の社会主義国が19世紀の音楽家をどの様な価値観で評価しているのかもうかがい知ることが出来るのである。

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