最後に演奏されたカリオンの響きだけは、その哀しさを忘れることはできないという2010/04/18 10:39

 実家の自分の部屋に戻ると安らぐ。

 穴倉みたいなところに本やレコード、収集物に囲まれていると、本当に落ち着き、夜もよく眠れる。

 かなりのアナログレコードが置いたままになっているので、聴く。
 アンプは、300Bシングル。

 フランスバロックの声楽曲が多い。フランスの音楽はその地味な色彩性と歌謡性が特徴で、構造を重視するドイツ、オーストリア系のバロックや派手なイタリアバロックとも違う。

 フランスのシャンソンは、ルネサンス時代に発達した。それは、モノフォニーの世俗曲が中心だったが、ポリフォニー曲にも独特の和声の色彩感と共に引き継がれている。

 バロック時代には、世俗的歌曲は、廃れるが、むしろ宗教曲に、そのフランス音楽独自の特色が現れており、フランスバロック音楽の1つの特色を示している。

 フランスバロックでは、器楽音楽は、宮廷舞踏曲や式典用に作曲されたために派手な側面が強いが、宗教曲は、静謐ではあるが、情熱的な歌謡が独唱、合唱の側面に聞かれるし、フーガの楽章等は、宮廷器楽音楽の華やかな側面もみられ、多様性を持っている。

 私がフランスバロック音楽に親しんだのは、中学校位の頃に、バッハのフランス組曲を倣っていて、それを叔母の前で演奏した時に、「フランス風序曲のリズムとしては、重い。」との評価を受けて、手本に、クープランやラモーやリュリ等の曲を弾いて聴かせてくれた。

 特にラモーの曲については、これまで聴いたことの無いような響きの深みを持っていた。

 その後、ギターも演奏する様になり、ルイ14世の時代の組曲とか、トンボー(死者の墓に捧ぐ音楽)等を演奏する様になった。

 フランス人は、死の悲しみの感情を音化するのに熱心だった。それは、死について歌った歌が多かったためかも知れない。

 その色彩は、派手ではないが、色調は強く、深みをおびている。その深みは、やはり人生の哀しみを意識した色だったに違いない。

 叔母は、高等美術院の近くのパリ郊外の教会で行われた旧貴族の葬儀の様子について話してくれた。それは、葬儀とは思われないような華やかなものであったが、最後に演奏されたカリオンの響きだけは、その哀しさを忘れることはできないという。

 そうして、私が死んだ時には、カンプラのレクイエム(写真のCD)を演奏して欲しいといっていた。奉献唱の後にくるフーガの楽章の後半で、カリオンの主題が演奏されるから。

 カリオンの響きは死者の気持ちを内在している。その高低の響きを聞いている内に、生者との離別の哀しさや死の苦しみのつらい思い出、孤独の寂しさを忘れて、響きと共に、往生させてもらえるからかもしれない。

 カンプラと同じ時代の作曲家、ジルのレクイエムには、カリオンの楽章はないが、このヘルヴェッヘの演奏では、別の作曲家のカリオン曲を最後につけて死者への弔いとしている。

 今、聞いているのは、オルランド・ラッソのレクイエムである。これは、ジルやカンプラよりも更に古い時代でしかも、ベルギー国境側の作曲家なので、フランスバロックとはかけ離れているが、それでも、後の作品につながる良さがあるようだ。

 それにしても、ここは静かで良いなあ。