本を粗末にしてはいかん2010/05/16 09:40

「ものの本」、これが、江戸時代からの書籍の呼び方だった。

「ものの本」は、書肆で購入されるものでなくて、「ものの本や」(貸本屋)の店頭、行商で貸し出されるもので、裕福な庶民には、予約販売等がされることもあったが、現代人よりもずっとエコロジカルな面でしっかりしていた江戸時代の庶民は、書籍は、「借りるもの」だと思っていた。

「ものの本や」は、日本の近代化以前の図書館的な役割をしており、この時代の情報提供の中心は、「ものの本や」や瓦版、讀賣等で、書籍商ではなかった。

書籍がこれくらい巷にあふれ出したのは、高度成長期以降だと思う。本は、やはり、知識階級のものだった。母方の家では、叔母(京大卒)、母(高卒)という位、学歴に俄然差があったが、「本」の扱いというか学問への態度に差があった。

うちの家では、本が床にほおり出されてあったり、あるいは、積み上げられていたり、広げたままほったらかしてあっても、怒られることはなかったが、叔母の家で、一度、床に本がおいてあったのを跨いだら、ビンタを喰わされた。

「本を粗末にしてはいかん。」と厳しく怒られ、古典籍の写本の話とか、活字を拾う職工さんの話とか、苦労して本を買うためにお金を貯めた話とかそういった話をくどくどと聞かされた。

母親は、同じ姉妹とは思えないほど、無頓着で、トイレでよく本を読んでいた。

今朝、子供ニュースで、IPADと電子書籍が取り上げられていたが、電子書籍の歴史は、非常に古く、少なくとも日本では、不毛であった。

前にもこのブログで取り上げた1984年に執筆した「未来の図書館」という拙論でも、電子書籍の登場と書籍の物流革命、出版業界の衰退等について書いたが、当時は、全く相手にされなかった。電子書籍は、いつでも、どこでも好きな本を入手可能だが、保存性やリテラシーの問題が出てくる点も指摘した。

電子書籍の動きは、今から15年位前に、NECが電子ブックの端末を販売したが、全く売れなかった。時代がそこまでついていかなかったし、ソフトウェアの供給、書店ルートで販売される価格が、一般の本よりも高い為に、普及しなかった。

当時、既に私は、今の会社にいたので、日刊の情報誌をテキストファイルや電子ブックフォーマットで、直売等の企画書を書いて出したが、全く相手にされなかった。(自分は、コミュニケーション能力、説得力がないので、駄目だ。)

今朝の番組で、電子書籍で読める本(日本語)が少ないとされていたが、青空文庫とかいろいろあるので、別に困らないが、敢えて、特別なメディアフォーマットで読まなくても、PDFファイル等で十分だと思う。

青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/


雑誌とかそういったものは、読み捨てる人が大部分なのだが、やはり、ペーパーメディアの手軽は捨て難い。

今回のipadについて、出版メディアの学者大先生がインタビューに答えていたが、これまで商業ベースに乗らなかったものでも電子書籍であれば、出版可能という。しかし、これって、別にPDFファイルをネットで販売するのと変わらないので、既に売れておれば、売れている筈で、新しさも何もなく、あんまり期待出来ないと思う。

IPAD自体も僕には、関心はそれほど無い。たしかに従来に比べて軽量化されているし、紙に近い操作感覚がある等、進歩した点もあるが、それよりも、更にシンプルで軽量化、価格も1万円を切る位の電子書籍を読む端末がほしい。

個人的には、ポメラで十分だ。これにデータ記憶容量とネット通信機能を持たせれば、それで十分。

今後、各種の電子書籍端末が出てくると思われるが、書籍(ルビ等を含めて、ペーパー)の内容どおりに正確かつ優秀に表現できて、SDメモリ等の既存媒体との融合性をもたせ、著作権保護(コピーガード、リージョンコード等)の共通企画を決めないと普及しないと思う。

文部科学省等でも、電子書籍についてのこれらの問題点を把握して、早い内から、行政指導を行わないと、また、いい加減なグローバル化の影響を受けて、日本の書籍、出版、メディア業界を更に衰退させる可能性もありそうだ。

三島由紀夫 『蘭陵王』の草稿を読んで2010/05/16 21:22


 この草稿が梅田茶屋町の古書店で販売されていた。

 あちらこちらに修正、加筆された箇所があって、この人、最後に書いた短編まで、こんな風に推敲を繰りかえしていたんだと思って読み返す。


 修正は、間違いを正した訳ではなくて、表現の変更に近い。1箇所が修正されると、それに呼応する箇所にも手が入っており、因果関係が良く判る。

 この順番を追っていくと、作家の思考過程(この人、原稿を書きながらも考え続けていたんだ。)が判るので面白い。

 近代文学ってつまらないと思っていたが、活字以前の段階をみると、古典文学に近い様なところもあり、結構、面白いと思った。