鎖国的な食料自給推進と箱庭的な価格政策2010/07/20 22:46

 かなり仕事話になって恐縮だが、農林水産省が今年の3月に刊行した『海外食料需給レポート2009』が東京支社から送られてきたので、それを帰りの電車の中で読んでいた。

 大部分がUSDA(米国農務省)がまとめた世界の穀物需給のデータをベースに、年度毎の変化を追って、その状況をまとめてあるが、実に、ヨソの国のデータをまとめてこれだけの分析が出来て、立派な本が出せるものと関心する。

 USDAのデータ自体は、WEBで誰でも発表日に閲覧出来るものである。

 しかし、これだけ色々とまとめてあると結構、面白いというかショックを受けた。

 穀物でも先物投機とかの対象にされるとうもろこしや大豆等もあるが、とうもろこしは、日本では、家畜の飼料とかコーンスターチの原料に大豆は、油脂の原料や、飼料として脱脂大豆(油を絞った残り粕)が利用されている。脱脂大豆については、日本国内の生産が足りないので、輸入で補われている。

 いずれの作物もアジア圏を中心とした人口爆発と経済発展による食生活の向上、あるいは、エタノール等のバイオ燃料需要を背景に需給は逼迫していて、価格も上昇傾向となっている。

 しかし、見過ごしがちなのが、私たちの主食の米である。米の国際価格の上昇は、1999年を100とした指数で表すと、212.4となり、大豆に並ぶ高水準である。

 世界の米の生産量は、2007~2008年度には、4億3,389万屯に達している。一方、消費量は、4億2,850万屯である。大部分が自国で消費されるので、輸出の量は、大豆やとうもろこし等に比べて圧倒的に少ない。

 例えば中国の生産量は、1億3,022万屯でその内、消費量は、1億2,745万屯、輸入量は、30万屯、輸出量は、97万屯である。

 日本の国内の生産量は、08~09年度のデータ(この本に載っていないので、直接USDAのWEBにアクセスして調べた)では、期初在庫は、256万屯、生産量は、803万屯、輸入は、66万屯で、供給総合計は、僅か1,125万屯である。国内需要は、833万屯、輸出は20万屯で需要総合計は、853万屯、期末在庫は、272万屯となっている。
 年々、在庫が増えている為に、生産調整が衆知の通り行われている。
 
 ところで、民主党が進めている農家戸別所得補償制度は、131万9,277戸が加入申請を行った。その内、生産調整の実施者は、118万1,800戸にも及ぶ。
http://www.jacom.or.jp/news/2010/07/news100720-10238.php

 つまり、所得補償を受ける為には、生産調整への参加が前提条件となっている。価格支持と生産調整が抱き合わせとなっており、更に国税が投入される点、日本独自の昔のソ連の集団農場を彷彿とさせる社会主義的政策である。

 今の世の中で、ここまでやっている国はない。但し、問題なのは、市場経済と乖離した所得補償を行う為に膨大な財源が必要であること。
 また、たしかに、日本国内では、期末在庫が270万屯以上に増加しており、需要に対する在庫率は、32.7%となる。

 一方、世界全体の米の在庫率は、08~09年度の場合は、19.5%となっているが、生産量と需要量のキャパシティは、世界全体で僅か540万屯くらいしかないので、この程度の在庫率は、必要である。

 日本の場合は、「不足すれば、輸入を行えば良いではないか。」ということで、生産調整を最優先に進めているが、この状況は、逼迫している世界の米の需給情勢と矛盾した動きである。

 世界の米の需給逼迫が、冒頭に示した主要穀物の中で、最も高い価格の上昇率に現れているとみるべきである。

 日本の米の価格が安すぎて農家が食べて行けないのは、世界の需給情勢と乖離したところに日本の米の「鎖国的な食料自給推進と箱庭的な価格政策」が行われており、日本国内という殆ど市場性が期待出来ない狭い器の中で、価格形成を行おうとしている為。

 もし、日本が、米の輸入完全自由化を行った場合には、米の値段は下がるだろうか。たしかに、「開国」時点では、幾分価格は下がるだろうが、中国の上海や大連、日本国内の米の先物取引市場と連携した場合には、価格は、世界の需給情勢を反映したものとなり、むしろ世界水準まで上昇するだろう。
 270万屯の余剰在庫があるというが、海外に輸出すれば良いのだと思う。

 常々、日本の農水省の姿勢をみて気づかされるのは、「食料自給率の向上」ということだが、もはや、グローバルな視点からみれば、日本1国だけの食料自給、食料安全保障は不可能であり、アメリカ、アジア、欧州と世界の穀物流通の流れの中で、日本の農業を位置づけて、サバイバルを図らなければならない時代に入ってしまっている。

 ビジネス、工業製品、情報産業は、グローバルと言っておきながら、時代錯誤の所得補償制度を進める民主党の農業政策に、果たして未来があるだろうか。