夢の中での「聖なる出逢い」2010/08/08 10:28

『法然と浄土信仰』(讀賣新聞社,1984)

 先日の金曜日に阪急古書街で購入。800円。新本の定価は、2000円。

 ビジュアルで良くできた本で、これを読むと、おおまかな法然浄土教全般の知識がある程度理解出来る。

 佛教大学の高橋弘次先生(3代前の学長先生)、水谷幸正先生(理事長先生)、関山和夫先生(佛教大学名誉教授)、望月信成先生(あの有名な望月先生)等々、佛大の先生方が本書の中で、活躍されているが、気になるのは、この本の表記で佛教大学が仏教大学になっている点である。ちゃんと固有名詞で表現してほしい。

 阿弥陀25菩薩来迎図の収載量が特に多いのが特色。編集者の趣味か。

 興味深い企画は、「浄土の音を聞く」でこれも、数年前に亡くなられた作曲家の柴田南雄先生の文章であるが、この先生の作品は、現代音楽とはいいかねるが、簡潔・明解な個性的な作品を書かれておられる。作曲家というのは、例えば、いくつかの楽器を組み合わせた作品を構想するが、その際に、全体の音のバランスとか特色等を「心の中の音のイメージ」をまず作り上げて、創作活動をする。もし、来迎図は、平等院の雲中供養菩薩達のもっている楽器類を組み合わせて、合奏させたら、どんな音楽になるかイメージされて、この文章が書かれている。この本の中で、これが、一番独創性を持っている。

 高橋先生は、当麻曼荼羅と観無量寿経、仏説阿弥陀経との関連、そこに流れる浄土信仰とは、どの様なものかわかりやすい文章で書かれているし、水谷先生は地獄について書かれている。

 伊藤唯真先生の「法然の肖像」についての文章もわかりやすい。特に九条兼実についての描写が面白い。

 佛大の教養課程のスクーリングで、「法然の生涯と思想」という科目があるが、その副読本としては、これが良いかも。

 法然上人の宗教体験の頂点は、やはり、あの絵伝にも描かれた善導大師との夢の中での出会いである。善導大師は、法然の時代よりも500年も前の中国のお坊さんである。だから、実際にはあえる筈はないが、祖師との出会いによって、浄土宗開宗への悟りを得た訳であるから、最も重要なイメージである。(実際には、この夢の出会い以前に「観経疏」に出会ったことであり、経典・注釈を通じての出逢いである。)

 夢の中での出逢いと聞いて、ピーンと来た人もいるだろう。そう、明恵上人の夢日記との共通点である。宗旨は全くことなるが、「夢中感得」という点では、両者は共通している。

 中世仏教の特色としては、庶民教化とかそういった面での革新性が強調されがちであるが、古代仏教が、教義・理論研究が礎になっているのに対して、理論研究をふまえながらも、観相という1つの修行法から出発し、夢の中での感得、そして、教義の具体化、布教という道筋を取っている点で大きな特色がある。

 密教にもそういった面が挙げられるが、教化の対象が庶民に向けられることはなかった。

 何故、感得という点が重要だったのか、それは、専修念仏をベースに、高僧も庶民も同様に聖なる阿弥陀のイメージを感得することが出来るという点であると思う。