問題は、高麗大蔵経2010/08/12 22:57

 曖昧な発言が韓国の怒りを産んだ。

 菅首相が「朝鮮王朝儀軌ナド」の文化財を「お渡しする」と発言したことで、その曖昧さの結果、日韓関係にむしろマイナスイメージが拡大している。

 具体的な文化財名を挙げるよりも、「旧統治時代に日本に持ち帰られた文化財の内の何点か」とかそういった言い方の方が良かっただろう。

 質問されれば、「後日、具体名を明らかにする。」と答えておけばよい。その「何点か」の選択権も日本に選択権がある筈。なんせ、「お渡しする」のだから。

 韓国では、エスカレートして、旧植民地時代はおろか、秀吉の朝鮮侵略とか、あるいは新羅、高麗時代の文物(つまり飛鳥・奈良時代に日本に渡来した文化財)までを範囲に挙げている。

 文化財というのが、実は、外交上は凄く厄介なものであることを菅さんは知らなかったのではないか。

 パンドラの箱を開けてしまったのだ。

 例えば、ベルリン博物館やルーブルにあるエジプト文明の遺産は、ナポレオン時代に、この地域から探検隊が「発掘」して持ち帰ったものであるが、ドイツ人やフランス人は、「発見者は私達である。」と主張して、返還する必要はないとする。

 中国敦煌壁画の場合もその様な見解であるが、この場合は、明らかに当時の中国側の考古学者の記録も残されており、搾取・略奪であることは紛れもない事実である。大谷探検隊のそれも、残念ながら、略奪行為である。しかし、代金を支払っているのだから、安い値段で売り渡した方にも責任がある。

 問題は、高麗大蔵経である。

 これは、室町時代に略奪ではなく正規のルートで日本に持ち込まれている。増上寺や大谷大学に完全に揃った形で、「高麗八萬大蔵経の版木」から印刷された完本が保管されている。これは、あの大正新脩大蔵経の底本に当たる。

 室町期に、版木ではなくて、印刷されたメディアを交易で正規ルートで日本に持ち込まれたものも、韓国人が主張する返還の対象に入っている訳である。

 つまり、海外旅行で、現地を訪問して、リトグラフを購入したが、それを後になって、「文化財だから。」と返還を求められるのと同じだ。

 これは、少し、おかしいと思う。本国にある版木の一部は、戦乱で焼けてしまったので、韓国の仏教学者は、どうしてもこれを手に入れたい訳である。

 版木の保存の責任は朝鮮王朝にあった筈である。日本の僧侶・寺院が、室町時代から、あの戦国の争乱・戦火をくぐり抜けて、数百年も守り伝えてきたものまでもが返還されなければならないというのはおかしい。

 中国人が世界で2冊しかない船橋本・陽明本孝子伝の原本を「平安時代に中国から盗まれたものなので返して欲しい。」と主張するのと変わらない。

 結局、彼らが言いたいのは、「日本の戦後賠償は終わっていない。その贖いの一部として、朝鮮半島由来の日本に存在している文化財を全て譲って欲しい。」という暴論を吐いている様なものだと思う。

 古代には、こういった文化財や宝物をめぐって、戦争までも何回も起きている。新たな火種にならないことを願うばかりである。

コメント

トラックバック