人は死ぬ前に幼い時のことを想い出す2011/01/27 16:22

 今日はモーツアルトの誕生日。
 彼は、1756年の1月27日にザルツブルクで生まれた。

 OTTAVAでもモーツアルト大特集をやっている。

 モーツアルトの作品で一番好きなのは、やはり、クラリネットコンチェルトである。次いで好きなのは、ピアノコンチェルト第27番である。

 どちらも晩年の作品で、その寂しさは、もう何もかも経験し尽くして、枯れていく人間の境遇とか境地を示していると思う。

 人は死ぬ前に幼い時のことを想い出すというが、将に、27番コンチェルトのロンド楽章は、幼い頃に耳にした旋律なんだろう。ペダルを深く踏んで、フワッとした感じの演奏、そう、もう無くなった井上さんという方の演奏が好きだった。

 ところで、彼の最後のシンフォニーであるジュピター交響曲の最終楽章の主題もフーガであるが、これは、一番、最初に書いた交響曲第1番の第2楽章の主題でもある。

 晩年のモーツアルトが子供の頃を想い出していたのか、あるいは、まだ幼児の様な年齢の彼が、晩年のことを想像して書いたのか、判らない。しかも、この風変わりで印象的な主題をホルンで吹かせている。この時代、ブルックナーでもあるまいし、シンフォニー第2楽章の主題を途中であるとしてもホルンで吹かせるなんて、凄い前衛だったと思う。でも、この楽器の奥深さが、やはり、この少年が、自分が死ぬときのことを考えていたのだと想わせられる。

 モーツアルトが死んだのは、1791年の12月5日。つまり、この人は、冬に生まれ、冬に死んでいる。

 僅か35歳の生涯で、その晩年の作品は、同じ年の人間としては、考えれない程、「晩年らしい」と思う。クラリネット協奏曲は、バセットクラリネットの為に書かれている。つまり、このクラリネットのB♭管で、後にA管向けに編曲されたことが、1967年に元々の作品が発掘されたことでハッキリした。

 このコンチェルトに比べて、ウェーバーのクラリネットコンチェルトがつまらなく聞こえることか。

 モーツアルトの作品に匹敵するのは、唯一、ブラームスのクラリネット五重奏曲である。このロ短調の響きは、モーツアルトのイ長調の曲に比べて、ずっと深刻な筈であるが、モーツアルトの五重奏曲の方が、ずっと哀しげである。

 面白いのは、五重奏曲は、A管で書かれているのに、どうして、コンチェルトの方が、ずっと低い音域のB♭で書かれたんだろう。クラリネットの低音で印象的なのは、あのチャイコフスキーの悲愴の展開部が始まる前のクラリネットのソロであるが、これも底知れぬ低音の不気味な響きである。

 モーツアルトの晩年の作品には、チャイコフスキーの「自殺交響曲」の様な悲惨さはないが、やはり、死というものを意識して書いた作品かもしれない。

 いずれにしても凄く音域の広い曲である。第2楽章が僕は好きである。ウラッハの演奏をよくLPで聞いていた。
 そういえば、「アベ・ベルム・コルプス」も好きである。この合唱曲は、レクイエムよりも本当の死の境地を表していると思う。

 ○寒鴉鳴き声遙かロ短調

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