「蓄音機修理師」 世にもまれな職業2008/09/13 00:44

 阪急梅田7階催場で、「素晴らしき時代マーケット」が、9月10日(水)~9月16日(火)まで開催されている。

 何でも鑑定団でおなじみの前野重雄さんのショップ「流体力学」や岩崎絃昌さんなどの骨董の世界の有名人を直にみることが出来て、ドキドキハラハラ。
 でも、あんまり、私の興味を惹くものはなくて、蓄音機とオルゴールのコーナーに自然と足が向いていた。
 シリンダー式とか円盤式など興味はないが蓄音機は別で、卓上型(ラッパ・箱形)から、フロア型の超高級機まで展示されていた。
 なかでもHMV203(英グラモフォン社 1928年製)が展示・販売されており、価格は、税込み154万円。
 状態は、中くらいだが、ごく僅か限定生産されたゴールドターンテーブル、ピックアップ・サウンドボックスが目映い輝きを見せている。
 呆気にとられてみていたら、オジサンが「鳴らしましょうか」というと、「僕、これ、買えませんよ。お金なくて。」と言うと、「いいですよ。とにかく聴いてみて下さい。」
 ということで、最初は、流行歌、それからモギレフスキーが演奏するシューマンの「トロイメライ」を演奏してくれた。
 大きさは、高さが1メートル位、幅が50㎝位か。
 クレデンザよりも小さく改良されているという。
 音は、それは素晴らしく、これが、SP盤の音とは思えないほど生々しく、雑音も殆ど聞こえず、楽器の定位(モノラルなのに)も安定している感じ。
 SPレコードも真空管アンプで再生して聴いているが、こんなに安定して優れた気品のある音質で聞こえたことはない。
 オジサンは、更に調子にのってターンテーブルを分解して見せてくれた。
 「ほら、この通り、自動的に潤滑油がシャフト軸に注油されて何時も円滑な動きを保ちます。」
 その通り、80年前に作られたメカとは思えない精密さ。
 音もただ単にサウンドボックスの音をホーンで機械的に拡大したものとは思えないほど、瑞々しく不純物がない。
 「貯金がいくらあったっけ。」と考え出していると、
 「阪急の無利子ローンが使えますよ。」とオジサンの声、(悪魔なのか。)
 「どうも、ありがとうございました。これで退散します。」というと、「まだ、1週間やってますよ。いつでも来て下さい。」と続ける。
 このオジサンは、なんと、職業は、「蓄音機修理師」、この様な職業の人が世の中に存在するのだ。広島の骨董店に居て、阪神間の蓄音機を修理しているという。
 機械の取扱方等をみていると、やはり、すぐれた修理士だと思った。
 佛大にも国文の坂井教授が、HMVの蓄音機を持っていて、タンゴ等を再生しているらしい。やはり、大学教授位にならないと持てないステータスなんだと思った。

 それにしても電気を全く通さずに再生された音ってこんなに素晴らしいものなんだ。

プレイヤーアームの修理2007/04/17 23:04


 結局、レコードが聴けない生活に耐えられなくなり、ZJゲージレイアウトを外して、元の場所にYAMAHAGT750を設置。
 GT-750には、実は、以前から、取扱不注意からの故障箇所がある。それは、プレイヤーアームの上下の高さを調節するクランプの部分である。
 写真をよく見れば、判るが、インサイドフォースキャンセラーの錘の右側に真新しい摘みネジ(スリワリローレットボルトと言う名前がつけられている。)が見えるだろう。
 この場所には、元々はダイキャスト製のクランプがついていた。ところが、クランプが締まりすぎて二進も三進も行かなくなり、無理に動かしているとボリッと折れてしまった。運が悪い事にクランプの根元(ネジの部分)がネジ穴に嵌ったまま折れてしまったので、どうする事も出来ずに放置してあった。
 アームの高さが調整出来なくてもそれ程支障が無かったので、そのまま使っていたが、大型のカートリッジの場合には、このままでは使用出来ないので、今回修理を試みた。
 ネジの軸の部分はどうしても外れなかったので、小型ドリルでネジの嵌ったまま、中心部から穴を開けた。その小さな穴からM4位の穴を開けて広げた。中心軸まで達したら、ネジが完全に壊れて、クランプされていた上下軸が外れ自由に動かせる様になった。
 空いた穴にM5のタップ(ネジ穴)を開けた。タップでのねじ切りには、相当な力が必要で、ドリルのトルクを使用した。これで、M5のビスやネジで上下軸をクランプ出来る様になった。
 問題は、そのまま、蝶ボルトやビス等で固定したらあまりに不細工である事で、大小のノブや単なる寸切り(短い目でマイナスドライバー用溝がついているもの)等を試したが、結局、スリワリローレットボルトで落ち着いた。
 こういったネジは、東急ハンズでも販売されておらず、大阪日本橋のネジのナニワで購入した。
 こうして、快調にレコードを聴く事が出来ている。ダイキャスト製の金属部品は意外に脆いので取扱注意!

デジタルイコライザアンプでLP再生に新境地2007/03/03 16:53

IXYDIGITAL70で撮影

だいぶ前にトライパスのデジタルアンプキットを購入した。基盤キットなので、電源等は全て自分で調達し組み立てる。
http://www.kamaden.com/index.html

写真が現物だが、試聴する前の印象は、デジタル的なヒステリックで薄っぺらな音と言うのがイメージであったが、実際には全く正反対であった。

まず、透明感があり、滑らかである。ワイドレンジで、定位も明確である。音の歪みが皆無なので、音場の見通しも豊か。

むしろ、上質の真空管アンプを思わせる音である。アナログ入力信号をAD変換して、その振幅信号をデジタル技術で増幅している。1ビット変換で、パルス信号化された電圧信号を増幅して出力している。

出力の場合にはローパスフィルターを通るが、その影響は驚く程少ない。但し、出力は、10ワットどまり。

しかし、電源回路か組み立て方法が悪いのか、デジタルアンプのICを良く壊して3回壊して、4回目も壊れたので、そのまま置いている。

壊れる度に基盤を買い換えるのがもったいないので、半田シュ太郎で丁寧に換装する。(これでIC等の半導体の半田付けが凄くうまくなったです。)

結局、安定性で2A3の球アンプを常用しているが、耐久性が良ければ十分に使用に耐えて、少なくとも10万円以上の市販品並みの音がすると思う。

それで、面白いと思ったのが、デジタルアンプの技術をLPレコード再生用のイコライザアンプに応用出来ないかと言う事である。

球と同じく電圧増幅で、透明度も期待出来る。信号特性もRIAAカーブ以外に、コロンビアとか様々にデジタル的に変更出来る。ノイズも少ないので、これ程、LPレコード再生に向いたデバイスはないだろう。

残念ながら、私には、デジタルアンプの設計技術もないし、製品化も個人では無理なので、物好きの人が開発してくれる人を期待している。

トランジスタ、IC(オペアンプ)等よりも、格段に優れたものが出来る事は請け合いである。

ああ、フルトヴェングラー2007/02/24 14:19


 写真はフルトヴェングラー指揮ウィーンフィルハーモニーによるブルックナー交響曲第8番ハ短調のLPジャケットである。
 録音は、1954年4月10日ムジークフェラインでのライブ録音で、イタリアチェトラレーベルをキングレコードが日本販売したもの。
 フルトヴェングラーが生涯を終える前に残り半年余りの時期に録音された。
 このLPは、この30年近く記録を続けている「ボクのレコード購入台帳」によると、関西大学生協で1982年11月に購入した旨記載されており、想い出深い1枚である。
 フルトヴェングラーのブルックナー第8番の録音としては、①同じくウィーンフィルによる1944年10月17日のライブ録音、②1949年3月14日のベルリンフィル演奏会ライブと③1949年3月15日、つまり、翌日に同じ組み合わせで収録されたライブ、④1954年4月10日の今回取りあげたウィーンフィルとのライブ録音の4種類存在している。
 その内、①、②、④のCDは所有している。③は未入手である。
 演奏の特長は、①、②は類似している。フルトヴェングラーらしい起伏のある解釈は、ウィーンフィル、ベルリンフィルともに共通している。ところが、④は、どちらかと言えば静かな表現で特に第3楽章のアダージョは内面に沈み込む様な幽玄とも言えるべき演奏であり、最も気に入っている。
 ④は、①、②に比べてかなり異なった演奏の特色を持っている。
 ブルックナーの交響曲第8番は、初演から、流布されて続けて来た改訂版(恐らく初演時からハンス・リヒターやシャーク等の巨匠によって手を加えられて来たある意味伝統的なスコア)、ハース版(オーストリア国立図書館音楽収集部長ローベルト・ハース(1886-1960)が、手稿譜や様々な資料を基にこれが原典に近い姿の復元を試みた版)、ノヴァーク版第1稿(オーストリア国立図書館でハースの後任を努めたレオポルド・ノヴァーク(1904~)が、ブルックナーがこの曲を最初に完成した1887年稿を元に復元された版)、ノヴァーク版(第2稿)(ブルックナーが1890年に完成させ、宮廷図書館に寄贈された最終稿・第2稿を元にノヴァークが校訂を行った版で最近では、この版がメインで演奏されている。
 ハースは、1887年稿、1890年稿を参考に最も理想的な「原典」の校訂を目指したのに対してノヴァークは、近代文献批判学の成果に基づき、成立年代によって異なる稿の校異をそのまま残して、2つの版としてノヴァーク第2批判全集を著した。
 フルトヴェングラーは、ハースと同時代の指揮者であったので、ハース版を尊重する姿勢であり、①、②の演奏ともにハース版によっている。
 ところが、1954年録音の③では、改訂版による演奏点が問題視されて、フルトヴェングラーの録音ではない贋作であるとの疑惑を受けた。
 1980年代後半のフルトヴェングラー研究者の間で、論争が繰り広げられたが、現在では、フルトヴェングラーの演奏であると認知されるに至っている。
 1990年代?にイタリアのハント社がこの録音をCD化したものを出した。
 その後、私が所有するARCHIPEL(ARPCD0118)等幾つかのレーベルが復刻しており、この度、オーパス蔵が、新たに入手したテープを元に復刻した版を出した。
 OPK7027/8Willhelm Furtwangler / Vienna Bruckner: Symphony No.8 in c minor <rec.1954.4.10Live>
 http://www.opuskura.com/releases_e.htm
 現在、フルトヴェングラーマニアの間で、この1954年版について盛り上がっている。
 主に音質についてである。フルトヴェングラー演奏録音の復刻は、ここへ来てブームであり、所謂、SP、LP板起こしや、ドイツ帝国放送収録のテープ、戦後のテープ録音を元にあちらこちらで復刻CDが制作されているが、どれも音質が微妙に異なるのである。
 オーパス版を試聴した限りでは、従来版に比べて、低音が締まりが良く、中高音の分離が良いのが特長である。
 興味深いのは、次の点である。
 ①初出(写真)のLPでは、音楽と異なるアナウンスや声楽の混信の様なノイズが入るが新しい版では聞かれない。
 ②演奏後の拍手の入り方がLPでは唐突であるが、新しい版では自然である。
 ③音質は、LPの為か幾分ぼんやりしている。また、演奏自体のピッチ(音程)も低い目である等の特長がある。
 オーパス版では、元にしたテープの出所が明記されていない。これでは、オーソライズされた録音であるか判定出来ないので改めて欲しい。)
 LP版は、明らかに放送のエアチェック音源によるものと見られる。だから混信ノイズが入るのだろう。
 いずれにしても同じライブ演奏を別々のルートで収録したものであると考えられる。
 フルトヴェングラーの演奏であるか否かの判定については、例えば、第2楽章の冒頭で見られるフルトヴェングラーの足音、加速時のシューシューとした息づかいが聞こえるが、これは、彼のライブ録音に共通するものであり、これらが、最新の復刻技術によって明確に聞こえてくるので間違いないと思う。
 『フルトヴェングラーの全名演名盤』(宇野功芳著 講談社α文庫)では、これがクナッパーツブッシュの演奏であると言う意見も出たが、この演奏がクナである筈がないし、ハース版でも彼は随所で改訂版を使用していたと指摘している。演奏評は、「朝比奈隆の様なブルックナーを聞き慣れたものにとっては、珍奇以外の何者でもない。」と酷評されている。
 私は、朝比奈やヴァントのブルックナー演奏は退屈極まりなく、特に朝比奈大フィルの演奏は、作家の五味氏が指摘していた様に、アマチュア的であり、感心出来ないと思っているので、宇野氏の意見には正反対である。
 これは、素晴らしい演奏だと思う。晩年のフルトヴェングラーの崇高な境地が聞き取れる。
 当時彼の聴力も低下し、かなり弱っていたと思われる。この為、演奏譜を吟味する体力と時間の余裕はなく、従って、前のチクルスでクナか誰かがブルックナー第8を取りあげた後、そのままのスコア(パート譜)を使用せざるを得なかったと見られる。
 しかし、そんなことはどうでも良いのだ。