『日中・中日共同尼雅(ニヤ)遺跡学術調査報告書』2008/01/02 23:09

『日中・中日共同尼雅(ニヤ)遺跡学術調査報告書』(佛教大学アジア宗教文化情報研究所・佛教大学ニヤ遺跡学術研究機構編,2007)

 大変分厚い本である。スキャナーの上に載せてスキャンしようとすると、ガラス面が湾曲してエラーが出てしまう。
 それで表紙の写真は、IXYDIGITAL70で撮影した。
 A4版353頁、図版41頁の大きな本。
 定価不明。でも高いと思う。私が購った訳ではないから判らない。
 佛教大学四条センターで11月11日に開催された日中共同シルクロード学術研究国際シンポジウムで、仏教芸術コースで教えを受けた安藤佳香先生が講演されるというので、メールで、「是非、出席させていただきます。」と先生に連絡したにもかかわらず、11月3日から原因不明の顔面が膨れあがって腫れる病気に罹って、出席が出来なかった。
 「出席出来ず残念でした。」とお詫びのメールを出したら、安藤先生から、最初は、公開シンポジウムの講義録が送られて来た。これもかなり分厚い本だったが、「内容に興味を持っていたので、凄く良かったです。ありがとうございます。」とメールを差し上げたら、今度は、この本が送られて来た。
 理由はすぐに判ったと言わねばならないが、12月は仕事とスクーリングに追われてこの本を開く時間がなかったので、昨日、この本を開いてようやく判明した次第。
 せっかくの写真図版が講義録では、木板に描かれた菩薩の姿が判明できない。
 しかし、この調査報告書では、白黒ながら、ハッキリ描かれているのが見て採れた。
 181頁に描かれている図17、浮彫式菩薩形立像柱で、人型に切り抜かれた木柱というか板に菩薩の姿が墨描されている。
 その顔が、NHKで放映された壁画の菩薩の顔とそっくりであるのが判った。
 12月の年の瀬が迫ったある日、分厚い本が佛教大学から宅急便で送られて来た時に、何事かと思った。安藤先生がまさか、この本まで送って頂けると思っていなかったので、感謝感激!
  先生の論文は、「ニヤ出土遺跡にみられる「中インド風」~蓮華文壁画断片と浮彫式菩薩形立柱~」という長いテーマで、先ほどの木柱に描かれた菩薩の目の描かれた方(瞳が目の輪郭の上側のみにくっつき、下側は僅かに隙間が空いている。「三白眼」と先生は言われている。)が、インドのアジャンター石窟画の菩薩の顔から、シルクロードのニヤ遺跡、キジル石窟等西域全域に分布し、それは、更に法隆寺の金堂壁画、東寺西院の曼荼羅、箕面勝尾寺の薬師如来に至るまで、その流れを追う事が出来るという雄大な構想が示されている。また、蓮華文壁画については、八弁花の蓮華が描かれて、その中心の台が上方にラッパ状に伸びて、三粒の蓮実が描かれている図案で、こちらも、蓮華化生の思想が、サーンチー、パールフット出土等のインドから、ホータンの蓮華化生像、そして、ニヤ遺跡、更には、日本にまで伝えられているのは、単なる図案の伝播というよりも、生命の根源ともいうべき蓮華の開花・台からの実が化生すると言う、インドのヴィシュヌ神信仰にも遡る事が出来る仏教思想の根底にある「化生」の思想がインドからニヤ遺跡を経て日本にまで伝えられていると言う、常々先生が言われている「化生」思想のルーツにも関連している点を指摘されている。
 しかし、私を何よりも喜ばせたのは、論文集もさることながら、ニヤ遺跡の詳細な発掘データが記述されている点である。特に出土品の計測図、発掘図面、ミイラがまとっている服飾等で、ミイラの頭髪の中には、金髪のものも見られるとあり、どの様な人が生活していたかを彷彿とさせる。
 こうした発掘データを私なりに分析して、ニヤの人達の生活文化がどの様であったのか思いを馳せる事も楽しみの1つだ。
 こうした本を読むには、想像力が大切だ。発掘報告データや論文から最大限に想像力を発揮させる事で、ニヤ遺跡を家にいながら探訪する事が出来る。

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