宇治に関しては、『宇治川両岸一覧』という本が、特に面白い。2009/06/23 23:04

 京都eラーニング塾をずっと続けている。

 最近受講したのが、「eラーニングで学ぶ名所図会の世界~江戸時代の宇治めぐり」という講座である。

 講師は、西野由紀先生(龍谷大学文学部非常勤講師)で、宇治に関する名所図会の解説を通して、労働、遊興、名所、旧跡等、江戸時代の宇治について学ぼうというもの。

 江戸時代には、名所図会という地域ガイドブック(旅行案内)の様な書物が出版された。その中で、都名所図会(宇治は、第5巻に登場)が有名だが、宇治に関しては、『宇治川両岸一覧』という本が、特に面白い。
 この本は、京都は、俵屋清兵衛、江戸は、山城屋佐兵衛、大阪は河内屋喜兵衛の3書林による相合版である。

 江戸末期の文久3年(1863年)に出版された三色刷の淡彩画が挿絵に描かれ、通常の名所図会の半分の携帯版で刊行されている。
 都名所図会は、1色刷りであるが、この本はカラー版(淡彩)で豪華美麗な本である。

 扉絵のデザイン等は、意外とモダンであり、明治期の出版物を思わせる様な配色、装飾、デザインである。

 明治期の版本は数多く出版されているが、美しい装飾の本が多く、唐草模様などが配されたりしているので、西洋書の影響を受けたと思われたが、実は、幕末時代には、こんなカラフルモダンな本が出ていたことから、江戸期の整版本の文化が洗練を極めた幕末期には、独自のカラー装飾の版本が出版される様になったということが判って面白い。

 この本は、西野由紀先生も執筆に加わられている『京都宇治川探訪』(鈴木康久,西野由紀共著,2007,人文書院)に美しい挿絵が全編カラーで掲載されており、講座では、説明足らずの部分も判りやすく説明されている。更に、早稲田大学の図書館の蔵書でもカラーで全編をみることが出来る。
http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ru04/ru04_03762/index.html
 こちらの方が色彩の再現に優れているので、是非参照して欲しい。

 宇治は、平等院やら通圓茶屋、宇治橋、釣殿観音、扇芝、橋姫祠等が有名であり、江戸時代には、現存している光景もあれば、今は、失われてしまった光景もあり、その違いをこの本で楽しむことが出来る。

 この本の第1章宇治川悠久の歴史からに詳しく説明されているが、大正時代のダム建設や宇治ライン下り等の近代の宇治観光史も紹介されており興味深い。

 結局、古くは、豊臣秀吉の治水事業や近代のダム建設で、平等院の辺りの景観は、平安時代からは、大きく様変わりし、現代まで伝えられているが、その途中経過を確かめる点でこの本は参考になる。

 残念なのは、現代の様子を示す写真が小さくて見にくいこと、現代の地図と照合されていないこと等がある。

 そこで、私は、GoogleEARTHで宇治川を下り、その景観を確かめてみようと思った訳である。

 江戸時代は、暁鐘成という人が始めた都名所図会がヒットとなり、それからご当地ものの名所図会が数々刊行される様になった。大抵は、その土地で有名な景観を絵師に命じて描かせて、その名所にちなみ石碑であれば、碑文、和歌、俳諧、漢詩等を配したもの。

 つまり、図会と統治案内(地理、名産)、そして文芸がセットになった出版メディアである。そうして、これらは、ご当地紹介という意味以外に江戸時代の「地域おこし」にも大いに役に立った。

 現在でも各地の名所には石碑等が残されているが、古いと言っても、大抵が江戸時代に建立されたものが多い。元々、名跡と伝えられていた所も荒れ果て、何もなくなったところに石碑を建てて、松を植えて、景観を整えて、更に名所図会に描かせて、多くの当時の観光客を集めた。宇治両岸図会は、美しいカラー版であるが、旅行への携帯に便利な様に、工夫された携帯ガイドマップみたいなものである。
 
 地域振興とメディアとのコラボは、案外、現代の私たちよりもずっと江戸時代の人の方が巧みであったのかもしれない。


 詳しくは、eラーニングで見て欲しい。
 6月30日まで、別に京都府民でなくても申し込むことが出来る。
http://info.pref.kyoto.lg.jp/el/home_anna/0100000000/index000101000000000037.html

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