大阪女子大本「源氏物語絵詞」の成立時期について2008/07/04 23:14

 片桐洋一先生が校注・翻刻された大阪女子大学蔵の源氏物語絵詞は、どの様な事情で制作されたのかということと、成立時期について考察を行う際に、やはり、場面選択ということが重要であることに気がついた。
 この点については、卒論にも触れているが、以前、ブログに柏木巻の場面選択の表を挙げたので参照して欲しい。
「柏木の巻場面アナリーゼ」
http://fry.asablo.jp/blog/2008/04/11/3056205
 結局、国宝源氏物語絵巻と近世の源氏絵の場面選択とは、大きな傾向の違いが見られるという点がある。
 国宝源氏物語絵巻で絵画化されているのは、この表の⑦の朱雀院下山と女三宮出家、⑨の柏木、夕霧に真実を告白、死去、⑩若君の五十日の祝儀の3箇所であるが、近世の源氏絵では、柏木の病気平癒の為に聖が加持祈祷を行う場面、この巻の最後の方の場面である夕霧と落葉宮を訪問し、和歌の贈答を行う場面に限定されている。
 ところが、大阪女子大蔵の源氏物語絵詞では、⑦の朱雀院下山と女三宮出家、⑩若君の五十日の祝儀、⑫夕霧、柏木の未亡人、御息所を訪問、⑬夕霧、大臣邸を訪問が挙げられており、特に国宝源氏物語絵巻と重複している箇所と⑫、⑬の様に源氏物語絵詞独自の場面が選択されている。
 残念ながら、源氏物語絵詞は絵画の部分がないので、どの様な構図が知る由もない。
 先日の京都文博の千年紀にも別系統の本の源氏物語絵師(中世期)のものが出展され、これは、国宝源氏物語絵巻に次いで古い資料という事であるが、残念ながら、全ての巻を見る事が出来なかったので、どの様な場面が選択されていた知る事は出来ない。
 (独)国立文化財機構の藤本孝一氏によれば、「文書・写本の作り方」の著書や、実際の講演で、現存する絵詞本のうち、詞の部分のみが残されているもののかなりの割合で、絵の部分が切り離されて、再製本された可能性を示唆されている。
 大阪女子大本の源氏絵詞も元々は絵画部分が残されていた可能性はある。
 選ばれた場面の性格から見て、この本が成立したのはほぼ中世期と見て良いだろう。
 というのは、国宝源氏物語で選ばれた場面と近世期の場面選択の特性の両方の性質が、その選択傾向に認められるからである。
 明らかにこの絵詞は、近世的な場面選択の傾向とは離れたところにある。
 但し、本文は、源氏物語をそのまま引用しているのではなくて梗概化された本文である。梗概化された本文を利用していても、源氏物語の場面の深層の理解がある程度、残存していたので、平安末期の源氏物語の場面の見方の価値観が未だ残されている一方で、近世的な方向性に少し動き始めたという事が示されているのかもしれない。
 ここに挙げている場面は、近世の源氏絵でかなり早い時期に描かれたとみられる。伝住吉如慶筆の源氏物語扇面画帳から、聖が柏木の病を加持祈祷する場面である。
 近世的な源氏絵解釈の幕開けである。

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