『マンダラの仏たち』(頼富本宏著,1996,東京美術)2008/12/24 22:32


 この本は、マンダラ関係としては、割と、有名な本であり、価格も1,200円で、大学のテキスト等で使われているところもありそうだ。

 内容的には、カラー図版が少ない等、見にくい面もあるけれども、頼富先生の解説は、素晴らしい。

 大抵のマンダラ、あるいは、密教美術関係の解説書は、美術史的観点、あるいは、尊格については、絵画的な特徴を中心に解説したものが多いが、この本、如来、菩薩、明王について、その形態的な特徴よりも、その形態が描かれる密教的な思想の背景から考察している。

 従って、如来、菩薩、明王について、その尊格が産み出されるまでの経典や既存仏教から密教への変化がどの様に影響しているかについて詳細に解説している。

 特に、出色なのは、明王部である、頼富先生は、明王こそが、密教の思想が先行する仏教宗派の影響を受けずに直接的に尊格、形態に反映されている貴重な例としており、大日如来やあるいは、様々な仏達の密教に於ける神通力の様なパワーが明王の形として描かれているので、明王達を詳しく観察することで、金剛界や胎蔵界の密教宇宙に本質を理解する入り口にもなり得ると説明されている。

 特に不動明王の初期の少年の様な姿から、憤怒の表情への移行の過程で、どの様な密教思想の変化があったのかについての考察が興味深い。

 私の国文学科の師匠である黒田彰先生は、密教図像学会に入られているが、真っ先にこの本を推薦して下さったことを記憶している。

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