「ザ・仏像」展来春早々開催2008/12/27 09:09

 来年初の切手の博物館・企画展示は、「ザ・仏像」展である。

 切手の博物館が所蔵する切手30万種から仏像及び仏画をモチーフとした切手を発行国、地域別に紹介される。

 もちろん日本の代表的な「仏像切手」も紹介される。

 例えば、世界最初の仏像切手は、アンコール・トム遺跡を仏像モチーフを描いたもの(仏領インドシナ 1931年)、日本最初の仏像切手は、鎌倉の大仏を描いた通常切手(1939年)

 仏像・仏画切手のどこが資料として重要かと言えば、現在は、様々な事情から写真や実物を見ることが出来ない資料が掲載されていることがあるので、例えば、戦争やテロで破壊された遺跡にもともと存在していたものや火災で消失したもの資料も切手で確認することが出来る点。

 但し、注意しなければならないのは、図案化する際にある程度の改編が行われることがあるので、この点を常に留意しておかねばならない。

 仏像研究者にとっても貴重な展示なると思われるので、参観をお奨めする。

会期は、1月6日(火)~3月29日(日)
財団法人 切手の博物館
〒171-0031 東京都豊島区目白1-4-23 切手の博物館
PHONE: 03-5951-3331 FAX: 03-5951-3332

http://www.yushu.or.jp/museum/kikaku/hotoke.html

JDAAの復活を求める(デジタルメディア保存の危機)2008/12/27 09:47

 今日付の日本経済新聞に「デジタル情報の長期保存に暗雲」という特集記事が掲載されている。

 この記事がユニークで評価出来る点は、デジタル情報の保存性の問題については、従来から指摘されていたが、それを、実際的な運営にかかるコスト面から捉えていることである。

 世界各国で図書館や資料館等で、デジタルアーカイブスが構築されているが、その保存費用が、デジタルメディア媒体の劣化の影響で、膨大なものになるという点である。

 今から30年ほど前に拙論「21世紀の図書館(ネットワーク図書館時代の危機)」を関西大学に提出したが、全く理解されず、採用される放置されたままである。

 この論文では、2010年頃には、映像、音楽、書籍資料の相当部分がデジタルメディアに変換され、ネットワーク化されることによって、ネットワーク図書館時代が到来し、図書館の運営経費、人員の大幅削減が可能になるということ、メディアも携帯液晶端末(当時は、液晶は電卓や時計にしか採用されていなかったが、A4版相当の画像表示で厚さ1~2㎝程度、メモリーカードにデータをネットワーク図書館からダウンロードして、使用する)が主流になる等、当時としては、夢の様なことをかなり書いて、それが、ほぼ、実現していることに驚いている。

 更に、最近では、30年前に私が危惧したことが実現しようとしている。それは、「デジタルメディア媒体の保存性」の問題である。

 当時、既に、日本の古典文学作品のデータ入力を開始し、勅撰集等のデータ入力を完了していたが、磁気テープにデーターを記録していたが、トラッキングエラーが出れば、保存されていた情報が全く利用出来なくなるという状況に遭遇した。

 紙やアナログレコード等では、一部の情報が欠損しても部分的にも再生出来るが、デジタルメディアの場合は、修復力は非常に弱く、欠損した場合には、メディア全体が読めなくなってしまい無用の長物と化すること、また、歴史的な長期年月の経過で、デジタルメディアを解読する技術さえも忘れ去られる可能性もある。

 この様な経験から、「図書館の役割は、過去の優れた文化遺産を凍結保存して、文明が衰えた時には、その遺産を活かすことで再生可能にすることであるが、保存データのデジタル化に伴いそういった機能が脆弱化する危惧がある。」という点を強調した。

 こうして、論文を締めくくったが、30年後に佛教大学で、平等院ご住職の神居先生のデジタルアーカイブスの講義を拝聴して、30年前に危惧したことが現実化していることが判った。

 デジタルアーカイブスの事業は、文化庁等が中心に、約20年前から開始されているが、初期の幼稚なFACOM等のオフコンで収録された情報は、OSが違う為に殆ど利用不可能。それでもデータコンバートの事業続けられていたが、データ規模が1枚の画像で精々500K程度の精細度が低く、写真にも及ばない水準であること、膨大のコストがかかるために放置されている現状について述べられた。

 現在では、100Mピクセルでの3次元スキャン技術等が出来てきているが、こうなると、画像がDVDはおろかブルーレイディスクでも保存が困難になることが予想される。

 パソコンやデバイスの進化で過去のメディア媒体の陳腐化やソフトウエアの違いやメディアの劣化で利用不可能となる自体が存在している。実際に私の家でもWIN95以前に保存されたDVDのデータで解読ソフトの互換性がない為に、解読不可能になったことがあるので、WIN95パソコンを1台稼動可能な状態にしているが、保守用部品の調達も危うくなっている。

 これらの問題を防止するには、どんどん開発されるコンピュータシステムもOSやデバイスに付随するソフトで過去の媒体のデータも判読可能にする為の可塑性を確保すること、文化財や図書館のデジタルデータの保存・解読の標準フォーマットを制定、推奨することが求められている。こうした役割が期待されるのが、日本では、デジタルアーカイブ推進協議会(JDAA)であるが、協賛企業が少なかった為に財源不足に陥り、2005年7月で機能停止となっている。
http://www.dcaj.org/jdaa/index.htm

 国際機関の存在は知らないが、WDAA(世界デジタルアーカイブ推進協議会)等を設立して、デジタルメディアの劣化対策、保存コスト低減対策、更には、コンピュータハードウエアメーカー、マイクロソフトやアップル等のOSを開発している企業、ディスクドライブ等を製造しているハードウエアメーカー、関連ソフトウエア産業等と協議して、対策を考えていく以外にないだろう。

 すくなくともJDAA等の組織の復活が、求められている。

「LPの音って本当にいいの?」 波形を分析してみた(一部修正)2008/12/27 15:07

 「CDの音は冷たく、LPの音は暖かい。やっぱりアナログだ。」という声が多い。
 果たして事実なんだろうか。
 SSW(シンガーソングライター)のスペアナ機能を使用して測定してみた。

 装置は、次の通り

 CD SONYCPD-XE700+PARASOUND DAC-800
 LP YAMAHAGT750+DL103R(デンオンMCカートリッジ)+自作フォノイコ(12AX7A4本構成、回路は、CR型をベースに独自設計、電源回路は、外付けでケーブルで供給しているので、ノイズは皆無)
http://fry.asablo.jp/blog/2008/11/16/3938943

 CDとLP共にラインレベルの信号をサウンドブラスターDigital Music SX経由でPCにデジタル信号で取り込んで、録音ソフト「超録」でWAVファイルに変換して収録(44100HZ ステレオ16bit)
http://fry.asablo.jp/blog/2006/12/29/1080341
 そのデータをSSWのアナログオーディオトラックに読み込んで、レベル調整して、再生、スペアナを測定している。

 録音ソースは、
 ショルティ指揮シカゴ交響楽団
 マーラー交響曲第5番(1970年3月録音)
 CDは、ポリドールF35L-50039CD国内初発盤)
 LPは、DECCA414-321-1(輸入外盤オリジナル)
(LPの状態は、極めて良好、ノイズは皆無に近い)

 第1楽章葬送行進曲(極めてダイナミックスが大きい)を通して録音、再生を行った。

 全く同じアナログのオーケストラ録音を
CDとLPで、パワーアンプを通さずにラインレベルで波形測定を行った。

 波形の比較

10K-20K
 CDは、ダラ下がりだが、幾分ピークレベルは、大きい。LPは、やや下降気味のカーブだがレンジが伸びている。CDに比べて,LPのピーク信号レベルはやや小さい。つまり、小さな信号レベルでは、LPの方が高域レンジ感がある。CDは、大きな信号レベルでは、高域感が強調されるが、信号レベルが下がるとそれ程ではない。

 この辺りが、LPの音に繊細感、デリカシーが感じられる理由かも知れない。

4K-10K
 CD、LP共に大きな違いはみられない。

2K-4K
 LPの方が幾分レベルが大きいものの、違いという程ではない。

1K-2K
 LPの方がレベルが大きめで起伏が大きい。CDは、レベルは幾分小さめで、起伏が小さい。

400HZ-1K
 両者に大きな違いはみられない。CDの方がややピークレベルが大きい。

200-400HZ
 両者には大きな違いはない。

100-200HZ
 LPの方がレベルが大きめとなっている、波形も山形推移となっているのに対して、CDは、くぼんでいる。つまり、LPの方が強調される傾向となっている。

100HZ以下
 CDは、100HZに山がある。LPは、ダラ下がりだが、40HZ以下まで伸びており、むしろレベルは高い目、CDは、40HZ以下はダラ下がり。

 こうしてみると、LPの方が、超高域10K~2OKのレベルが高く、高域、中高域には、両者の違いはあまりみられず、中低域では、CDの方が強調される傾向がある。低域では、LPの方がレベルが強い目である。つまり、LPは、ドンシャリ型でワイドレンジ志向、CDは、中高域重視のかまぼこ型となっている。

 但し、両者のリマスターの段階での違い、LP用マスターを作る際のリミッターやイコライザー処理(あんまり行われていないような気がする。)、カッティングマシンの音質(帯域特性)、再生カートリッジの特性、イコライザーの設計と性能等があり、単純な比較は難しい。

 しかし、日常的に感じているLP再生への私の印象である「情報量が多い」という要素、例えば、超高域でのレベルが強いことで、楽器の倍音、定位、分離等に影響してくるし、重低音の充実感、中高域の刺激感の少ない自然な再生音という状況について、ある程度、波形分析で説明出来ると思う。

 それにしても、今回の測定の結果、自作のレコード用のイコライザーアンプが非常にフラットで優秀な特性を有していることが確認出来て満足している。

イメージの世界・唯識の世界に左右される私たち2008/12/27 22:56

 これまでの再生装置及びソースの周波数分布(スペアナ)の測定を行って来たが、残念ながら、ノイズレベルが測定出来ないのでダイナミックレンジ、歪み等については、測定結果には、反映されていない。

 CDとLPのソースの周波数測定結果の比較では、「そうみれば、その様にみえるかなー」という程度で、聴感上に感じられる両者の違い程の相違点は見いだせず、むしろ、「CDとかLPとか先入観を持っているから、そんな風に聞こえるのかな。」とも考えたくなる。

 しかし、超高域のダイナミックレンジの測定データがあれば、かなり的確な比較が出来ると思う。つまり、前回、「CDはレンジは伸びていないが、ピークレベルが高い」と指摘したが、CDは、超高域では、帯域の上限は、急峻に落ちているが、LPは、徐々に下降していくが、同時にノイズレベルが増すので、ダイナミックレンジは狭くなるといった見方も出来なくはない。スペアナでは、20Khzという人間の聴覚の限界レベルでのノイズか楽音かを分離して見せることが出来ない。

 また、比較に用いたデータもサンプリング周波数44100Khz以下(WAVファイルの上限)の制約があるので、20Khz以上の超高域でLPがどの様に周波数分布をしているかを知ることが出来なかった。

 いずれにしてもCDやLPといったソースの違いよりも、アンプやスピーカー等の再生装置による違いの方がずっと大きく、聴感上の変化は、再生装置による違いが影響している可能性が高い。

 今回は、スピーカーを取り替えて周波数を測定できなかったが、おそらく、この違いによる聴感上の変化が最も大きいだろう。アンプによる違いは、聴感上もハッキリ判る程であるが、スピーカーの違いはもっともっと大きいだろう。

 「デジタルだから音がキツク嫌で、アナログだから人間らしくウォームな音がする。」というのは、どうやらイメージの世界の様だ。

 但し、アナログイメージ志向の人が、「少しでもまったりした音を。」とトランジスター式アンプ(直流・交流を選ばず)やMOS-FETアンプ、あるいは、デジタルアンプから、古風なノスタルジーと、視覚的イメージの楽しさに溢れた真空管アンプ、例えば300Bシングル等にアンプシステムを交換したとする。

 そうすれば、再生帯域とダイナミックレンジが、半導体に比べて格段に狭いので、高級なCDやトランスポート、SACDプレイヤー等で、最新の録音(特にオーケストラやジャズフルバンド等の大編成)と組み合わせると、超高域や超低域でクリップが生じるので、「高域では刺激的な音のみが目立ち、それにしては、情報量が低い」という評価が生まれる可能性がある。

 そうした人達は、「やっぱり、アナログは、アナログ、LPレコードだよ。」とブラックディスクの再生にのめり込んでいく。当然、LPは、再生周波数レンジは広く、ダイナミックレンジは狭いという特性を持っているので、真空管アンプでも、「クリップしない安全圏の範囲内」で歪みが少ない音で再生出来るだろう。

 「やっぱり、LPの方が音が澄んでいるよ。」などと言いかねない。

 こうして、ますます、LPレコード再生と真空管アンプの組合せの評価が高まっていく訳である。

 また、最近のスピーカーシステムは、タワー型、行灯型等の狭い住居空間の事情を反映して、低音再生に不向きなものが多いので、歪んだ高域のみが強調されるので、余計にその様な傾向になるだろう。


 実際には、SACD、CD、LPでも再生帯域は、巷で言われている程の差はないのである。

 むしろ、アンプとスピーカーシステム、そして、録音そのものの良否の影響の方が聴感の印象を左右する。そういった点を考えると、注意しなればならないことは、次の通りとなる。

①良い演奏、良い録音のアルバムを選ぶ。
②十分な再生帯域とレンジがある装置を利用する。
③聴く前からイメージにとらわれない。(デジタル、アナログのソース上の物理的な特性の差異は、私たちが考える程大きくはない。)

③が特に難しいだろう。私たちは、「唯識」の世界に生きて、イメージに左右される動物・人類なのだから。

以上が一連の測定実験で覚ったことである。