FMfan 1968年9月23日号2010/05/29 14:18

実家の書棚を整理していたが、FMfan1968/09/23号を発見。
今から42年前の雑誌だが、状態はすごく綺麗。

当時のことを想い出しながら、ページを開く。
この時期、既に僕は、FMの録音をモノラルオープンリールでやっていた。テープコーダーは、叔母からもらった奴で、ラジオのスピーカーに直接マイクをつけて録音していたので音は悪かった。
オーディオ装置は、劣悪だったが、放送は最高、特にNHKFMは充実しており、夜明けから夜中まで、クラシック音楽が大部分で、FMを聞いているとクラシック音楽のあらゆるジャンルを聞くことが出来た。
当時のウィークデーの番組表をみると、

AM6:35 バロック音楽の楽しみ
これは、皆川達夫さんの名解説で、ルネサンスからバロック音楽を体系的に聞けた。

7:20 名演奏家の時間
 これは、20世紀の名演奏家の特集で、印象に残っているのは、シュバイツァー博士のオルガンや、カザルスのチェロであった。当時の名演奏家というのは、音楽が出来るだけではだめで、人格、言動、思想、あらゆる点で秀でていなければ、名演奏家(芸術家)とは呼ばなかった。

8:20 朝のリズム(ポピュラー)

9:05 家庭音楽鑑賞
 これは、クラシック音楽の入門的なライブラリーを新発売のレコード等で紹介する。全曲を放送してくれる点が今のNHKFMとは違うところ。これを録音するとライブラリーコレクションができあがる。
11:05 軽音楽アルバム

PM0:15 ひる休みの音楽(ポピュラー歌謡)現在の歌謡スクランブル的な内容。
1:00 ステレオホームコンサート
 これは、結構、本格的な録音でオーディオ的に優れたLPレコードをかけてくれる番組で若干マニア向け。例えば、10/02には、シューマン/バイオリン協奏曲ニ短調 シェリングVn アンタルドラティ ロンドン交響楽団の演奏等、以前、このブログにも紹介したLPレコードが放送されている。
3:30 邦楽演奏会 
4:00 FMジュークボックス
結構、ジャズ系の曲がよくかかっていた。洋盤中心で、ポップス、映画音楽が多かった。
8:20 ステレオコンサート
これは、レコード放送の時もあるが、日によっては、来日演奏家のライブ生中継とか、NHK交響楽の定期演奏会等が放送された。この時間帯が目玉で、特にFMfanで、放送内容をチェックし、エアチェックに備えたもの。

掲載されていたオーディオ装置の広告
 当時のオーディオ装置は、こんな時代がかったコンソールステレオ装置が中心で、真空管からトランジスターへの変換が始まった時代で、トランジスターの音が悪かった。特にパワートランジスターに音質が良いものがなかったので、FETをこの製品では採用している。



 レコードプレイヤー部は、カートリッジは、なんとセラミックカートリッジで、これは、針からの圧力を鉱物(ロッシェル塩)で電気信号に変換する仕組み。ステレオなので、三角形の突起から2系統の信号を取り入れるが、左右チャンネルの分離も、周波数特性も悪かった。でも、何よりもいけなかったのは、針圧が4.5グラムもあったので、レコード盤を痛めやすかったことである。メリットとしては、出力信号が大きいので、電圧増幅回路が設計しやすかったこと。また、自然とRIAAカーブに近い素子特性から、イコライザーアンプが必要なかった点である。

 プレイヤーの駆動方式は、クォーツDD方式等、サーボ回路を組んだら、ビル1軒位の大きさなるという稚拙な電子技術の時代なので、アイドラドライブである。これは、ターンテーブルにアイドラーと呼ばれるゴムの円盤をはさんで、モーターからの動力を伝達する仕組みであり、ゴロノイズ、スクランブルノイズが発生した。

 高級ステレオにこんなカートリッジや、ターンテーブル駆動メカが使用されること自体、今では、考えられない。

当時のカセットデッキ
 当時、既にステレオカセットデッキはあった。但し、ノイズリダクション回路は搭載されず、4トラックステレオであった。これは、松下電器で、パナソニックブランドなどなかった時代である。コンソールステレオとの接続は、現在の様なRCAプラグではなくて、広告写真の上の丸いでかいコネクターコードで接続した。
 当時は、FM放送がステレオカセット録音出来るだけでもステータスだった。


 これは、当時来日したジャズアーティスト。今では、レコードやCDでしか聞けないプレイヤーがナマ・ライブをやっていた。



 当時のFMfan誌は、音楽の友誌よりも早くクラシックコンサートの情報等をウィークリーのタイミングで報道していた。これは、当時、設立8周年を迎えた大阪フィルの東京公演のニュース。なんと朝比奈隆さんは、この時、年齢は、60歳。眼鏡もかけておらず、派手な動きで、フルトヴェングラーの様に起伏に富んだダイナミックな演奏が特徴だった。当時から、「現役最長老」と呼ばれていて、その後、33年間も「現役最長老」を続けたことになる。まさに恐るべし。


 曲目は、ブラームスの悲劇的序曲、シューベルトの未完成、そしてマーラーの交響曲第4番で、ソプラノは、橘光栄さんで、学研盤のベートーヴェンの第9番や、1972年頃に収録されたマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」でも、この人の演奏を聴くことが出来るが、やはり、当時の標準的なランクの歌い手さんで、ビブラート等は、時代がかっており、更に、音程が悪いので、あまり好きになれなかったことを覚えている。
 当時は、マーラーが歌えるだけでもステータスだった時代である。

 
裏表紙広告
 これは裏表紙で、プリアンプマランツの7Tの広告が載っている。これは、真空管マランツ7(12AX7Aを使用管)トランジスターに変えたもので、音は今ひとつだった。当時の販売代理店がYAMAHAだったのは驚き。


 ついでに驚くは、FMfan誌の価格は、定価80円であった点で、本当に当時は、これだけ充実した音楽生活が楽しめて、お金もかからない良い時代だった。
 これに比べて今の時代は、本当に「末世」だと思う。