復刻作業を行う人の魂がこもっているのかが重要である!2009/05/29 23:44

 ヤフオクで、フルトヴェングラーのLP6枚を落札してから「盤(イタ)オコシ」にはまっている。

 所謂、SPや古い時代のモノラル録音を、CDが復刻する場合の手法として「盤オコシ」がよく行われており、こうしたCDが最近では、マニアックなレーベルから市販される様になっており、1枚3千円以上するものもあり、それでも買う人がいるので驚き。

 実際に買って聴いてみたが、そんなに感激する程の水準ではない。「これくらいならば、僕でも出来るわ。」と思った。

 先日の1945年録音のフルトヴェングラー指揮ウィーンフィルのブラームス2番も、この様な盤オコシCDが存在するようだ。
http://www.geocities.jp/furtwanglercdreview/
 このWEBは素晴らしいが、特にマニアックな内容だと思う。

 盤オコシCDは、SP盤では、盤オコシしかないので、当然の様に行われているが、それでも音質を追求する為に複数のマトリックスを組み合わせたり、状態の良いSPレコードをコレクターから借用してCD化されている。また、SP電蓄もしくは、クレデンザからのアコースティックデジタル録音をおこなってCD化する場合もある。オルゴールのCD等と同じやり方。(オーパス蔵等のレーベルは、直接、SPからの信号を電気増幅してCD化をおこなっているので音が固い。)

 それでも満足出来ない人達もいる。その場合は、SPの金属原盤、あるいは、アセテート、ガラス原盤を直接、機械的、あるいは光学的手法で再生してアナ→デジ変換してCD化する。面白いのは、原盤用の針先もあり、これは、先端が凹となっている。ここまで来るとさすがに凄い音がする復刻CDもある。例えば、メンゲルベルクがコンセルトヘボウに戦前に録音したマーラーの交響曲第4番等がそうだ。

 フルトヴェングラーは、SP録音も多数存在するが、マニアの間での録音評価が活発なのは、ナチスドイツが発明したマグネトフォンという78㎝速度の磁気記録された録音以降である。
 マグネトフォンのCD化されたものも多々ある。
①原テープあるいは、それに近いものからの直接、アナ→デジ変換
②原テープからマスターテープが作成されLPレコードとして作成されたもの(メロディアやターンアバウト、ウラニア等のレーベル)からの盤オコシ。
③原テープを戦時中にラジオ放送されたものを当時のアマチュアがアセテート盤で録音したもの。

 この大きく分けて3通りである。先日、記事にしたブラームス第2番もマグネトフォンで録音された原盤を使用したLPである。(但し、原テープから直接マスターが作成された可能性は低く、孫テープ位か。)

 マグネトフォンで録音されたフルトヴェングラーの録音は、ソ連に接収されたものと、東ドイツ、西ドイツに放送用にダビングされたものがあり、マグネトフォンテープで録音されたもの全てがソ連由来ではない。

 ナチスが崩壊してからの録音技術は、大きく後退して、再びSP時代の水準になってしまった。この時期の程度の悪い録音と、やっと1950年代にナチスドイツの技術に追いついた連合国のオーディオ技術によって戦後録音されたテープ、あるいは、ベルリンフィルの場合は、戦後直後にティタニアパラストという映画館でのライブ収録の録音(テープ録音も存在するが、これは、おそらくマグネトフォンとは違う録音システムだろう。結構、優秀な録音も存在する。)

 ごちゃごちゃと書いてしまったが、結局、「モノラル録音」である。マグネトフォン時代に既にステレオ実験録音が行われ、カラヤンがブルックナー第8番の最終楽章を録音しているが、フルトヴェングラーのステレオ録音は存在しない。

 このモノラル録音、それも同じ演奏の記録でもCDとして発売されているのは、数種類から10種類を越えており、それぞれに録音評価が異なるのも驚き。モノラル録音の種類も、
①純粋モノラル
②疑似ステレオ(ブライトクランク)
③人工的に立体感を持たせているが、疑似ステレオという程ではない。
に分かれて評価されている。

それぞれ評価が分かれている。情報工学的にみれば、マグネトフォンのオリジナルテープから直接デジタルリマスターして、純粋モノラルでCD化されたものが良い音がすると思いがちであるが、実際には、フルトヴェングラーのファンは、そんな単純な評価はしない。

「音が生きているか、心に訴えてくるものがあるか。」そういった「芸術的」な評価が大事である。

戦後発売されたLPの盤オコシで作成されたCDでも高い評価を与えられる場合もその逆もある。また、オリジナルテープから24ビットでデジタル変換されたマスターからCD化された録音に対するマニアの批評は、それ程芳しくない。

これは、ブルーノ・ワルターコロンビア交響楽団の初期のステレオ録音のCD化されたものでも同様で、最近のリマスターCDよりも最初にリマスターされたものの方が良い録音であったりする。結局、復刻CD化を行う人間の技量、熱心さ、音楽的センス等の方がフルトヴェングラーの録音を活かすか殺すかに関わっているので面白い。

復刻作業を行う人の魂がこもっているのかそうでないのかということだろうか。

私も手持ちのCDから、自作の真空管式再生システム経由でパソコンでフルトヴェングラーのLPのデジタルマスターを作ってCD化をやっているが、同じLP原盤でも驚く程のクオリティの違いが現れるので、なんどやっても飽きない。

特にADコンバータの精度、如何にデジタル雑音をシャットアウトするか、また、ジッター防止の為にフラッシュメモリーに保存する等で音は相当変わってくるので驚き。

波形編集のやり方次第でも音は変わってくるので、面白い。
最近では、波形をみただけでどの指揮者の演奏か判る様になってきた。

現在、フルトヴェングラーがウィーンフィルで1950年代を中心に録音したベートーヴェン全集のLPから盤オコシの作業をやっているが、痛風の痛みが忘れてしまう位、楽しい作業である。図は、オリジナル復刻CDのレーベルである。