密教の真髄が1000文字で読める『マンダラ事典 100のキーワードで読み解く』(森雅秀著、2008、春秋社)2008/05/03 09:41

 金沢大学の教授であられる森雅秀先生には、佛教大学通信のスクーリングで2年前にお世話になった。
 スクーリングで最初の授業がアジア仏教美術史で森先生のご担当でいきなり、インドの初期密教史からチベット密教までを中心に展開されたので、仏像への知識が、小学生並みであった私は、大きなカルチャーショックを受けた。
 森先生は、WEBを開いておられて、大変なMAC使いでいらっしゃるので、画像データの処理等洗練されており、恐らく、仏教史、仏教学関係のWEBとしては、最も洗練された内容であると思う。
 また、丁寧にメンテナンスされており、授業のレジュメ等もアップしてあり、直接先生の教えを受けなくてもレジュメを参考に参考文献を読んでいけば、自学自習が出来る仕組みとなっている。
http://web.kanazawa-u.ac.jp/~hikaku/mori/mori_top.html
 このWEBで新刊書『マンダラ事典 100のキーワードで読み解く』(森雅秀著、2008、春秋社)の存在を知った。
 早速、先生にメールで問い合わせると、「今回の本は日本のマンダラもかなり取り上げています。事典なので、あまり深い内容ではありませんが、網羅的であることを目指しました。」
 とあったが、実際には、深い深い内容である。それよりも凄いのは、見開き2頁分、たった1000字の文字数で、1つの項目が完結しなければならないのであるが、日本の曼荼羅で両部曼荼羅、胎蔵曼荼羅等の項目をこれだけの文字数でまとめるという事は、本当にエッセンスだけになるので、余分な贅肉を限界まで剃り落として、これだけは、捨てられないという部分まで絞り込んだ上でまとめられている。
 つまり、そういった作業を行うことは、よっぽど、深く研究し、理解していなければ、出来ないことである。
 私が最も苦手なのが、「800字でまとめよ」等とか文字数を切られて、その範囲内で非常に大きな項目を書くということで、何時もテキスト履修の最終試験等は、裏表書いて、それでも文字数が足らないのでどうしようもないという事になる。
 余談はさておいて、この本の凄いのは、その網羅性である。
 『時輪タントラ(曼荼羅)』に至るまでのインド密教の歴史は、同時に曼荼羅の歴史であると言っても過言ではない。この中で面白いのは、『秘密集会曼荼羅』、『理趣経の曼荼羅』が非常に面白い。
 チベットの曼荼羅としては、『アルチ寺の曼荼羅』、リンチェンサンポが建立したスピティのタボ寺、まだまだ、西チベットからは、新しい曼荼羅が発見される可能性がある。中央チベットの初期の曼荼羅としては、シェル寺の五部具会曼荼羅等(口絵)があり、実に神秘的である。
 チベットの密教は、インド密教の流れを引き継いで15世紀に至っても発展を続けている。ツァン地方のゴル寺の『ヴァジュラーバリーの曼荼羅集』は、12世紀の本当にインドの仏教が滅亡しかけの時にかかれた『ヴァジュラーバリーの祈祷書』をテキストに作成された曼荼羅であり、チベット密教の流れを曼荼羅の実作品で知る事が出来る。
 この他、数え切れない程の曼荼羅作品が紹介される。中には、『死者の書曼荼羅』等カラーで紹介して欲しいものもあるが、非常に求めやすい1900円という価格で販売されていることを考えると、仕方がないだろう。
 インドで発生した密教が善無畏、金剛智によって中国にもたらされ、不空、恵果によって金剛頂経、大日系の両系統が、8世紀に両部不二として統合され、その完成した頂点の姿を奇しくも空海が伝えた事は、日本の仏教・密教に大きな発展をもたらしたが、その後の日本の密教の発展は、大きな変化もなく今日まで受け継がれたのに対して、インド仏教・密教が12世紀には衰退し、チベットで新たな展開を見せて、独特の洗練を見せていく仏教文化史の流れを本書を最初から読んでいくことによって理解出来る。
 実に有意義な本だと思う。

源氏物語絵巻と「愛敬」という言葉2008/05/03 11:26

 国宝源氏物語絵巻の竹河巻(上段)を見ていて唖然とした。
 構図が、橋姫巻と瓜二つである。
 蔵人の少将が姫君達を右手から垣間見る内部は、並行画法が描かれており、その左手に姫君達が位置する点までも同じである。
 きっと、同じ絵師が書いたに違いない。
 詞書の書き手についても小松茂美氏による十巻本想定復元表によれば、竹河と橋姫の書風は、同じⅣ類に属しており、同じ絵師と詞書(筆者)のグループによる制作であると推定される。
 どちらが先の執筆であるかと言う事になるが、橋姫の詞書は、竹河に比べて垣間見の視点移動がより明確に示されており、景色の描写も具体的であるので、こちらの方が着手しやすかった見えるので、こちらが先である可能性もある。
 また、構図も竹河巻の方が一層複雑でありながら、詳細・鮮明な描画手法が巧妙である。特に橋姫の場合は、姫君が琵琶の撥を持っている姿勢が不自然であったが、こちらは、そういったぎこちなさがなくて自然に描かれている。
 もっと面白いのは、詞書部分である。源氏物語大成によれば、橋姫は、保坂家本に近いが、青表紙本系の姫君の姿態を表す自動詞「よしづく」が「愛敬づく」に変えられているのは、絵巻物の詞書として本文を加工する際に生じた改変だと卒論草稿では指摘したが、竹河巻では、「桜の細長、山吹などのあひたる色あひのなつかしきほどに重なりたる裾まで、愛敬のこぼれ落ちたるやうに見ゆる。」とあり、ここでは、青表紙本の本文も絵巻詞書も「愛敬」という言葉を採用している点である。
 つまり、場面の絵画化に「愛敬」という言葉は、非常に適した表現なのだろうが、青表紙本の橋姫巻の詞書には見られない。その理由については、2通りの考え方がある。
①絵巻物詞書では、竹河巻の詞書と整合性を持たせる為に、「愛敬」という言葉に書き換えた。
②絵巻物の詞書として、もととなった12世紀前半に通用していた源氏物語の本文の橋姫巻には、「愛敬」という言葉が書かれていた。
 以上の2説が考えられる。ちなみに修士論文の時にこれだけに大部分の作業時間を取られてしまった源氏物語本文データベース(中段・下段)で検索してみると、竹河巻以外に、57件がヒット。この内、須磨明石巻以降の第2部と第3部(匂兵部卿以降)に五〇件が集中して見られ、絵巻物として残存している柏木、竹河、宿木、東屋巻には、複数箇所が見られ、非常に出現頻度が高い。
 こういった点から考えれば、もともとの橋姫巻詞書には、「愛敬」という言葉が存在していたのが、何らかの理由で青表紙本以降の本文では失われてしまった可能性が高く、②説の方が妥当という事になってしまう。
 そうなれば、卒論草稿で書いていた絵巻物場面と整合を図る為に本文が改変されたとした仮説は、覆される事になる。
 いよいよ迷路入りという事になってしまった。

フルベンのステレオ発見!2008/05/03 20:00

 マイミュージックスタジオには、SSW6.0がついて来ているが、このアナログのミキシング機能はなかなか充実している。
 6チャンネルまでのWAVファイル等の外部形式のファイルをインポート出来る。
 更にアナログミキサーには、ハイパス、ローパスフィルター、左右レベル調整機能等があるので、マルチトラック録音のデータを2チャンネルにミックスダウンが可能。
 但し、残念なのは、現段階でミックスダウン機能がないので、これは、後の号でバージョンアップされる。また、ミキサーでリバーブとかコーラス機能がついていない。(MIDIエディターには、この機能が附属している。)
 一方、別にかったSSW-lite5.0には、ミックスダウン機能があるし、リバーブ、コーラス機能がついているが、アナログデータは、たった2チャンネルしか編集出来ないという欠点がある。
 両者の機能を活かすには、SSW6のファイルをSSWLite5.0で読み込んで、リバーブ、コーラスを添加し、ミックスダウンする方法が現状ではある。
 この方法を使えば、モノラルの古い録音を疑似ステレオ加工することが出来る。
 左右チャンネルで周波数特性を変えるには、フィルターを駆使する。オーケストラでは、ヴァイオリンを左側、チェロ、コントラバスを右側に来るようにするには、左右の周波数特性を変えてレベルを調節してやれば良い。このファイルをSSWLite5.0で読み込んで、残響や位相を変化させて奥行きのある録音に仕上げる。
 この間、ワルティ堂島で、フルトヴェングラー・ベルリンフィルのR・シュトラウスのドン・ファン(1954年録音)を300円で買ったが、モノラル録音であることは除けば、録音状態は奇跡的に優秀であり、フルベンの録音では、最高品質に近いものだと確信出来た。
 このCDからWAVファイルを起こして、それを素材にステレオCDを作成してみた。
 モノラルファイルを2チャンネルのオーディオトラックに読み込んで、左右の音質や位相に変化を徐々に与えていく。試聴を重ねながらベストのポイントを捜していく。
 こうした作業の結果、仕上がったファイルは、奥行き、左右の広がり、ダイナミックレンジまで伸びて、まるで1960年代の録音の様に聞こえる。楽器の定位等は不自然なのは致し方ないが、フルベンの足音とか演奏ノイズまで左右から聞こえてくるから不思議だ。
 早速、このファイルからCDを作成して、今、家のシステムで聞いている。
 SSW6.0がバージョンアップして、そのままミックスダウンが可能になれば、3チャンネル、5チャンネルのファイルを起こす事が可能になる。そうなれば、高音弦楽器群、管楽器群、低音弦楽器群、打楽器群をそれぞれの特性毎に位相を変えて、ミックスダウンすれば、現代録音を遜色ないリマスターが可能になる。
 まさに、リマスターの奇跡といいたい。
ステレオ化ファイル
http://www.asahi-net.or.jp/~ZZ2T-FRY/donfanstereo
原音ファイル
http://www.asahi-net.or.jp/~ZZ2T-FRY/donfanmoto