私にとってノイズとは2007/08/13 10:10

『東京大学ノイズ文化論講義』(宮沢章夫著 白夜書房) のブックレビューをアップしたが、私にとってノイズとはどの様なものか考えてみた。ノイズのタイプを分類すると、

①境界型
②潜在型
③進入・漏洩型
の3つのタイプに分類されるだろう。

①の境界型は、地球の大気圏の様なものである。下層部には、濃厚な大気が上層部には、希薄な空気と紫外線、放射線、最上層部には、更に希薄な大気と宇宙塵や星くず、人工衛星の破片等の私たちの生活に不要なもの、「ノイズ」が増える。境界ノイズの特長は、境界面から遠ざかるに比例して段階的に増加していく特性を持っている。
 デジタル的な手法では、段階的に増加するノイズは、標本化の数値設定で排除するだけで、簡単に除去出来る。すなわち、地上デジタル放送の画面がクッキリしているのと同じ理屈である。20世紀末までの時代、私達は、アナログ的な境界ノイズに晒されて来た。このノイズは、アナログ的な手法で除去しようとしても完全の除く事が出来なかった。しかし、その様なノイズが存在する事で一つの安らぎを経ていた。

②の潜在型は、物質の内部、そのものに含まれるノイズである。つまり、完全防音の部屋で私たちを監視すると、そのマイクからは、呼吸音、脈拍音、内臓器官の音、あるいは、神経電磁波などのノイズが発生している。音楽の演奏の場合には、私達が、「樂音」と呼んでいる中には、その楽器が発生している倍音や歪み等のノイズが含まれている。また、真空アンプ等で増幅を行うとどうしても歪みが発生するが、歪みも波形の変化であるからノイズとして意識すれば、潜在型ノイズという事になる。母親の胎内音も、こうしたノイズである。潜在的ノイズは、バイオメトリックな存在には不可避なものであり、それが、生命の存在の証拠となっている。

③の進入・漏洩型は、境界を突き破って進入するノイズである。一度、進入してしまうと、境界型とは異なり、デジタル的な手法での排除は難しい。この典型例がコンピュータウイルスである。つまり、コンピュータウイルスは、デジタル社会の弱点を完全に見抜いた上で犯罪的に作成されている点である。協力なファイヤウォールで防御する以外に方法はないが、これも防ぐ事は難しい。
 結局、①~③に分類されるノイズを完全に排除する事は難しいし、不可能である。ノイズとの共存が私たちの生活を持続させる基本的条件なのかも知れない。
 1970年代の終わりから1980年代がノイズ排除の時代とされているが、当時、私は、FMエアチェックに熱中していた。大型のアンテナの設置、ゴーストノイズとの戦い、そして、テープデッキのドルビーシステム、全てがアナログ手法でのノイズ排除技術であった。
 大事なエアチェックの時間には、バイクや車の方向指示器のノイズを警戒、近くを車が通らない事を祈りつづけたものだ。
 当時の主要音楽メディアは、アナログレコードで、最新の注意を払ってベストの状態で作成されたエアチェックテープは、SN比(サウンドノイズ比)、ダイナミックレンジともにアナログレコードを上回っていた。
 当時録音していたテープがかなり残存しているが、ノイズが多くて、不合格としたテープを今、聞き返してみると、結構、良い音だったりするので、当時の潔癖さや今の自分の鈍感さに呆れたりしている。

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