賢治の「運命交響曲」2009/06/04 09:46

 NAXOS8.111003「ヴィルヘルム・フルトヴェングラー初期録音第2集」を聴いている。

 このCDには、1926年にフルトヴェングラーが初めて録音したベートーヴェン交響曲第5番ハ短調「運命」が収載されている。

 フルトヴェングラーの戦前の「運命」の録音は、たしか3~4種類(ライブを含めて)存在したと思うが、この録音は、フルトヴェングラーが音質等出来映えに難色を示して、直ぐにお蔵入りとなり、SPレコードとして市販された時期は案外短かった。直ぐに1937年録音の「運命」がこれにとって換わった為。

 たしかにこの1926年の「運命」は、一応、電気録音であるが、マイク録音ではなく、アメリカのブランスウィック社が開発した「ライトレイ録音」という方式で録音されている。これは、トーキームービーが最初に登場した時に採用された音声収録システムであり、原音は振動板に伝えられ、その振動板から伸びる針がフィルムに軌跡を刻む。再生する時は、その軌跡に光を当てて、その光の強弱を電流信号の変化に換えて、増幅するといったシステム。

 従って、音質は、マイク録音に比べてレンジは狭く、1929年辺りから使用され出した電気録音方式(マイク)に比べて、かなり落ちる。

 しかし、このCDは、ノイズは少なく、マイクは、オンマイクであり、各楽器の音が、鮮明に聞き取れるので、エコーが加わった後年の録音に比べて、フルトヴェングラーの指揮の特色は一層露わにされる。

 また、ベルリンフィルも黄金メンバーでナチスがユダヤ人の楽員を追放する以前の一糸乱れないアンサンブルを聴くことが出来る。

 演奏を技術面から評価すると非常に優れたもので、戦前、戦後を通してみてもトップクラスであると思う。また、フルトヴェングラーの指揮も、この頃は、霊媒師の様な感じではなくて、明確にタクトを振っていたと思われ、アインザッツ等も綺麗に揃っている。

 ところで、この1926年録音のフルトヴェングラー指揮交響曲第5番のSPレコードを聴いていたのである。

 宮沢賢治は、昭和2年にレコード交換会を開催しているが、その折りにもベートーヴェン第5交響曲という名称がみられる。(「運命」というタイトルはない。)この時の第5交響曲は誰の演奏であった判らない。昭和2年というのは、1927年にあたる訳で、フルトヴェングラーが最初の第5の録音を行ったのが、1926年であるので、このSP版の事ではない筈だ。
http://www.kanzaki.com/music/cahier/schicksal0407
 宮沢賢治のSPレコード収集レパートリーがWEBで発表されている。
http://www32.ocn.ne.jp/~tsuzu/operetta-kenjisp.html

 この中で、J.パスターナック指揮ビクター・コンサート管弦楽団の第5がリストにあるが、1916~1917年録音とあるので、これの盤か、1913年録音のアルトゥール・ニキッシュ指揮ベルリンフィルのSPである可能性がある。

 このCDも賢治のコレクションの中にあり、POL60024/08という5枚組みのSPである。友人に寄贈したとされている。
 賢治は、1933年に亡くなっているので、この1937年録音のフルヴェン「運命」を耳にすることなく世を去っている。
 賢治がもし、1940年頃まで在世しており、この録音を聴いたら、どんな感想を述べただろうか。1930年代は、ビクター赤盤の時代に入り、どんどん名曲がSPレコードで発売された時代であった。きっと、長生きして、綺羅星の様な演奏家の名録音を聴きたかったに違いない。


 事実、宮沢賢治は、この時代にしては驚くほど広範囲のコレクションをしており、当時の現代作曲家であったR..STRAUSの交響詩ドン・ファンや死と浄化といった作品も含まれているし、ドビッシーの牧神の午後等のフランス音楽も含まれている。

 面白いのは、結構、オタクレパートリーであるストコフスキー指揮のイッポリトフ・イワノフの管弦楽組曲「コーカサスの風景」があり、この中の酋長の行列等は、賢治の童話、メルヘンの世界にぴったりだ。

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