『コナン・ドイルの心霊学』(コナン・ドイル著、近藤千雄訳 潮文社 1300円+税)2008/09/11 21:14

『コナン・ドイルの心霊学』(コナン・ドイル著、近藤千雄訳 潮文社 1300円+税)
19世紀の知的伝統を引き継いだ欧米知識人達の多くが、世紀末的価値観を得て、スピリチュアリティーの文化を今世紀初頭に伝えている。
 それは、この間、紹介したパーシバル・ローウエル卿もそうだし、ラフカディオ・ヘルンもそうだと思う。
 欧米では、今世紀に入ってスピリチュアリティ的側面が近代科学絶対主義の中で、軽視される様になっていく。
 そうした風潮に対抗する為に心霊科学という学問分野が登場する。その様な実験は、「リング」のモデルにもなった御船千鶴子の「千里眼実験」等日本にも伝えられる。
 また、夏目漱石の夢十夜等の作品もこれも東洋思想というよりも欧米のスピリチュアリティ文化の影響を受けたものとみられる。
 特にコナン・ドイルは、英国のスピリチュアリズムの伝統を特に強く認識していた文学者であり、そういった意味で漱石に近い位置であった思う。
 スピリチュアリズムは、カーナボン卿によるツタンカーメン墓発見と共に、当時、流行と「ミイラ解体ショー」と同様に1920年代に、「降霊術ショー」といった形で、上流階級の娯楽として定着していった。
 こういった風潮の中で、コナン・ドイルは、スピリチュア・リズムを真面目に認識していた。
 この本は、2部構成となっており、その内の「第1部 新しき啓示の各章」の概要を紹介すると、次の通りとなる。
 第1章 心霊現象の実在を確信するまで
 この章では、ドイルの医学者としての側面から、心霊現象は「科学的現象」であると定義づけられている。
 第2章 新しき啓示とは
 この章では、キリスト教のスピリチュアリズムは、教会や教派思想にあるのではなくて、イエス・キリストの実在性に基づくものであるとされている。
 第3章 死後の世界の諸相
 この章では、スピリチュアリズムの実験を通じて得られた科学的データを元に死後の世界がどの様な世界であるのか述べられている。
 第4章 問題点と限界
 この章では、霊的意識と肉体的意識の関係、予知夢(感得夢)と霊的存在の関係について述べられている。 
 第2部では、重大なるメッセージとして、特に聖書に描かれたキリストの奇跡について、従来のキリスト教教義(神学)では、説明しきれない部分をスピリチュアリズムでは、合理的に説明出来ることを主張している。

 この本を読んで一番印象に残ったのは、伝統的なヨーロッパ文明の崩壊をもたらした第1次世界大戦を何故、キリスト教が防げなかったのか。
 中世の社会では、あれだけ政治・軍事面で大きな影響を持ち続けたキリスト教が、この戦争では無力であった。
 この原因について、キリスト教がニケーア宗教会議等の変遷を経て、スコラ哲学の手法と取り入れた神学として大系づけられる中で、それが教会・教派主義と融合した結果、形骸化してしまった。
 本来のキリストが伝えようとしたスピリチュアルな側面を軽視したことが、キリスト教の脆弱さを招き、それは、そのまま西欧の知的文明世界の退廃をもたらしたと結論づけている点である。
 こうした点は、仏教にも見られる点であり、西洋も東洋も同じようなことを考える人が居るものだと関心させられた。

 「あなたは、実は、スピリチュアルな世界にも、存在しているのだ。」

 読んでみて、なかなか面白い本であった。

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